前川 典央

前川 典央

二代目当主

25歳の時に前職をやめ家業を継ぐ決心をし、先代に師業しました。その頃初めて印傳という素材に出会い、何とも言えない鹿革の風合いと漆の光沢に魅了されました。当時印傳は呉服のバッグや和装小物のイメージが強く、一般の人には馴染みが薄かったのを覚えています。私自身も印傳のことは詳しく知らなかったので、まずは小銭入れを使ってみました。半年も使うと革はさらに柔らかくなり、艶も増してきました。これが経年変化かと、改めて印傳革の素晴らしさを再認識しました。

父のもとで製造の修行もしながら、メーカーの展示会にも積極的に参加しました。そこで私の人生を変えたと言ってもよい出会いがあったんです。ある問屋さんの言葉ですが、
「前川さん、作る技術も大事だけど、売るのも技術なんですよ。どんなに素晴らしい商品を作っても、それを製作者自身が伝えられなければ、無いものと同じですからね」

とにかく衝撃的でした。まさに当時のうちの経営不振の真髄を突かれた気がしました。

ものづくりに正解はない

父は根っからの職人でしたから、工賃度外視の商品を作るんです。そのため、卸値の折り合いがつかないことも度々あり、せっかく出来上がった商品を売る相手がいないなんて事もありました。

小説みたいな話なんですが、その後、その問屋が倒産したんです。青天の霹靂でした。売り上げはもちろん、売り先がなくなったんですからね。一瞬途方に暮れましたが、逆に吹っ切れたというか、覚悟が決まりました。

それから必死になって売り先を探してたところ、百貨店の催事を紹介されたんです。今では珍しくない百貨店催事の「職人展」は、全国から他業種の職人が集まり、実演を交えて販売するイベントです。

望まれる以上のものを目指し、最善を尽くす

私の父も販売の経験なんてゼロでしたから、最初は戸惑いの連続でした。その時に、あの社長の言葉を思い出しました。
「作るのも技術、売るのも技術」

それからは、百貨店の催事を中心に作ること売ることを必死に覚えました。またそれが、職人でありながら販売の現場に立ち、直接お客様に提供する今の前川印伝のスタイルに繋がっています。これこそが、先代がこだわった「お客様の声を聞きながらものづくり」なのです。

あれから約30年が過ぎ、現在は職人であり、プロデューサーでもあります。From 浅草を想いに、印傳の良さを日本のみならず、世界の方々に伝えられたらと仕事に取り組んでいます。